行列の四則演算の基本を解説します。高校でベクトルを習った方にとっては難しい内容ではありませんのでさらっと確認しましょう。
行列の和
行列の足し算は同じ型同士でしか行えません。
例えば$$A=\begin{bmatrix}2&3\\1&-1\end{bmatrix}, B=\begin{bmatrix}-2&7\\0&6\\4&2\end{bmatrix}, C=\begin{bmatrix}0&1\\-2&1\end{bmatrix}$$の三つの行列について、行列\(A\)と行列\(C\)は計算可能で、行列\(A\)と行列\(B\)は計算不能です。
$$A+C=\begin{bmatrix}2&3\\1&-1\end{bmatrix}+\begin{bmatrix}0&1\\-2&1\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}2+0&3+1\\1+(-2)&-1+1\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}2&4\\-1&0\end{bmatrix}$$
計算方法は単に各成分についてそれぞれ足し算を行うだけです。
行列のスカラー倍
行列のスカラー倍はベクトルと同様に計算できます。
行列\(A=\begin{bmatrix}2&3\\1&-1\end{bmatrix}\)を3倍するときを考えてみましょう。
$$3A=3\times\begin{bmatrix}2&3\\1&-1\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}3\times2&3\times3\\3\times1&3\times(-1)\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}6&9\\3&-3\end{bmatrix}$$
計算方法は行列のすべての成分にスカラーをそれぞれ掛けてあげるだけです。
行列の差
行列の和とスカラー倍を定義したことにより自然的に行列の引き算も行うことができます。
\(A=\begin{bmatrix}2&3\\1&-1\end{bmatrix},B=\begin{bmatrix}0&1\\-2&1\end{bmatrix}\)について\(A-B\)を計算するとき
行列のスカラー倍の定義より
$$-B=(-1)B=(-1)\times\begin{bmatrix}0&1\\-2&1\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}0&-1\\2&-1\end{bmatrix}$$
行列の和の定義より
$$A-B=A+(-B)=\begin{bmatrix}2&3\\1&-1\end{bmatrix}+\begin{bmatrix}0&-1\\2&-1\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}2&2\\3&-2\end{bmatrix}$$
したがって、行列の差はこのように解釈すれば和とスカラー倍の定義によって一般的に成り立つことがわかります。
$$A-B=A+(-1)B$$
最後に
なんだかあたりまえのことを複雑に計算しているように感じるかもしれませんが、実は高校までで習った数学というのは四則演算があたりまえのように行えるものに限っていました。むしろ行列についてはここまでは馴染みのある演算規則なのにありがたみを感じましょう。次回は今まで通りに計算ができない、行列の積について解説します。
まとめ
$$A=\begin{bmatrix}a_{11}&\cdots&a_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}&\cdots&a_{mn}\end{bmatrix}, B=\begin{bmatrix}b_{11}&\cdots&b_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\b_{m1}&\cdots&b_{mn}\end{bmatrix}$$に対して
$$A+B=\begin{bmatrix}a_{11}+b_{11}&\cdots&a_{1n}+b_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}+b_{m1}&\cdots&a_{mn}+b_{mn}\end{bmatrix}$$
$$cA=\begin{bmatrix}ca_{11}&\cdots&ca_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\ca_{m1}&\cdots&ca_{mn}\end{bmatrix}$$
参考文献
- 高木悟・長谷川研二・熊ノ郷直人・菊田伸・森澤貴之.2023.『理工系のための線形代数』.培風館